マラソン大会に出た。

昨年の11月のことだ。

夏頃に、同期から、

「湘南国際マラソンの10kmの部に出ない?」

との誘いを受けた。

普段から、走っているわけでもなければ、運動の習慣もなかった私だが、

あまり深く考えず、何となく面白そうかなと思い、

「うん、いいよ」

と軽い気持ちで誘いに乗った。


そして言われるがままに参加費を振り込み、エントリーが無事完了したことに

一安心してからは、あまりマラソンのことを考えることはなかった。


そして、刻々と月日は流れて行った。


時折、「そういえば」と、マラソン大会に申し込んでいたことをふと思い出しては、

今まで全く練習していないことと、そしてどうしてもする気が起きない後ろめたさに

胸にチクリと来ることがしばしばあった。



だったらどうして参加することにしたのかと問いただされても仕方ない。

当の私もそう思った。

普段の生活でも全く練習に取り組もうとしない自分の「のらくら」な部分に失望し、

また、当日の「苦しみ」に思いを巡らすことで襲いかかる「恐れ」に嫌気がさし、

何が面白くて決して安くはないお金を払って、その当日とそれに向かう

普段の生活でこんなにも苦しい思いをしなければならないのか、

と誰に対してもぶつけることの出来ない理不尽な怒りを抱えながら過ごしていた。


そういえば、小学校・中学校の時のマラソン大会は本当に苦しくて、

毎年憂鬱だったではないか。しかも、せいぜい3kmや4kmという距離ですら、だ。

それが、参加費を払ってすすんであの苦しみを体験しようとするなんて、

超ドM級の自虐行為ではないか。

そんな大勢の人々の集う大会・・・高尚であり今や好尚な「マラソン」という競技

に対して、変態的な印象を一瞬抱いてしまった。



そして、他の一緒に参加予定の同期も

「ヤバイねー。全然走ってないよー。走らなきゃー。」

と言いつつも、私同様、実際まったく走ろうとする意欲が見受けられなかったので

そんな態度に私もますますつけ上がり、結局マラソン当日まで一回も走ることはなかった。


一回も10KMという距離を走ったことがない上に、ロクに練習もしないで

本番に臨むなんて、マラソン愛好者たちから

「マラソンなめんなよ」

という冷たい視線を浴びせられてしかるべき極めて怠慢な参加者である。

やはり、何かに挑戦する際、前向きな動機や、思い入れが無い場合、

このように準備不足の状態で本番にのぞむことになり、痛い目をみるのだ。

小学・中学時代のマラソン大会がそれだ。


それでも、本番前日、悶絶の苦しみを味わうことを決意した(棄権せずに

参加するだけしてみよう。だってお金払ったし。)私は、「格好」をどうしようかと

悩んでいた。

「アディダス」のTシャツと「アディダス」のハーフパンツを持っていたので、それを

着ようと思ったのだが、それに合わせる「靴下」をどういったものにすれば

よいのかを迷っていた。


「くるぶし丈のソックス」は「田舎の女子中学生」を連想させるので、

「何だかなぁ」と思い、「ハイソックス」は、それにひざのサポーターを

装着すれば、まさしく「バレーボール部員」のようで、今にも回転レシーブ

をしかねない趣が感じられたので、これまた「何だかなぁ」と思った。


結局、「くるぶし丈」と「ひざ丈」の中間ぐらいの靴下を購入することで

落ち着いた。

そして今度はメーカーで悩む。

Tシャツとハーフパンツが「アディダス」だったので、靴下も出来れば

「アディダス」にして揃えたかったのだが、アディダスの靴下は予想以上に

値段が高く、高い参加費を払った私にはなかなか手を出す気になれなかった。

そこで見つけたのが、3足セットでお手頃価格で提供されていた

「チャンピオン」の靴下だ。これはお買い得である。


それにしても「チャンピオン」というメーカーの名を久し振りに見た気がした。

そういえば中学の時の陸上部の部活動で前開きの「チャンピオン」のパーカーに

お世話になったなぁ、なんて懐かしさがこみあげてくる。


でも、「マラソン」と言えば、「アディダス」か「ナイキ」あたりで決めるのが

一般的のようで、たとえ足元だけとはいえ、バスケブランド「チャンピオン」

の靴下をはくのは、いささかセンスを疑われるのではないか、という不安が

頭をよぎった。


もしくは、全く練習しないで臨んだ、私の不甲斐ない走りを見た他のランナーから

「あの人、あの走りで「チャンピオン」の靴下はいてチャンピオン気取っちゃってるよ」

なんて、冷笑を浴びせられるような事態にはならないだろうか。


「アディダス」と「チャンピオン」で大いに悩む・・・。
 
イトーヨーカドー3Fの婦人下着売り場にて・・・。

こんな外資系キャビンアテンダントが果たしているだろうか。


そして、ようやく意を決して「チャンピオン」の靴下を手に取り、レジへと向かった私。

「洗練さ」より、「手頃感」を選んだということだ。

別に上から下まで全て同じメーカーで合わせることないじゃないか。

上から「アディダス・アディダス・・・チャンピオン!」といった感じで

最後にまさかの「チャンピオン」を持ってくることで、見事三段オチを決めることができる。

マラソンを走る格好で三段オチを狙うランナーなんて果たしているだろうか。

ある意味において「チャンピオン」であると言えるかもしれない。

というわけで、他のランナーから嘲笑われたとしても、足元ぐらいは「チャンピオン」

の誇りを持ってレースに臨ませて頂こうと思った。


そして、早速家に帰って、「三段落ちスタイル」を試してみた。

やはり・・・く、靴下が・・・。


少しでも考えればわかったことだが、くるぶしとひざの中間ということは

脚の一番太いふくらはぎ部分であり、その丈は一番脚が太く見えてしまうのだ。


必然的に、私の「チャンピン」のマークは横に大きく広がり、

「チャンピオン」としての存在感を存分に示している。


私の足元の「チャンピオン度」は思いの外高いものとなり、

「チャンピオンとしての威厳を保つためには、あまりに情けない走りはできないぞ」、という

大きく横に広がった「チャンピオン」のマークからの無言の圧力がプレッシャーとして

のしかかる。

でも、本番は明日で、現在21時を過ぎている。


今からでは練習もできない。

そして今からでは、「アディダス」の靴下を買いにも行けない。


「チャンピオン」の存在により明日の本番がさらに憂鬱なものとなった。

次回へ続く。



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